北海道いい旅研究室12号に載った、マスター前田が書いたエッセイの2話目です。
前号で書いた清志郎はもういなくなってしましました。
日本で初めて本物ロック歌手は正直に歌を書いて歌って、去っていったのです。
この国の音楽界は大甘なところで、聴き手をなめた者だけが、成功していきます。そんなことは大切なことではないのですが、事実ではあります。
正直に歌うとどんどん一人になってゆく、しかし寂しく思いながらも、またおせっかいな歌を書いていった男、忌野清志郎。
ぼくはこの人はごく普通に良心に従って、かっこいい生き方を通した人だと思う。
日本で歌の上手い人が5人いるとすると、間違いなくこの人はその1人に入る。もう1人はここ札幌の「ベーカーショップブギー」というソウルバンドの沢内アキラさんで、その他3人はぼくがまだ出会っていない、どこかにいるはずの歌い手です。
清志郎がまだRCの頃、月寒グリーンドーム(現、北翔クロテック月寒ドーム)で、ベーカーと共演したことがありました。その時、清志郎はベーカーショップブギーの演奏の後、楽屋でアキラさんの手をにぎったまま離してくれなかったそうです。
一方アキラさんは清志郎のことをロックンロールの兄ちゃんくらいに思っていて、なぜ自分に向かって「ソウルブラザー」と言っているのか理解していなかったのでした。
清志郎の死後、次々に清志郎(RC)の特集番組が放送され、彼は日本のソウルバンドを目指していたことが判明しました。(フォーク時代から「ガッチャガッチャ」と叫んでいたのは本人はソウルを歌っていたつもりだったとは)
そこで月寒グリーンドームの話が納得できたのです。ベーカーと言えばソウルミュージック発祥の地アメリカ本国にさえ存在しないような「正しいソウルバンド」で、特にオーティスレディングをやらせたら本物の次にいい演奏をするバンドです。
清志郎はこの日本のはずれの月寒グリーンドームで、もういないはずのオーティスに出会ったのだから、感激で言葉にならなかったのでしょう。
一方アキラさんは清志郎のことなどまったく気にならなかった様で、最近ようやく「いやぁ、清志郎のこと、死んでから何か気になりだして、暮れのブルース収穫祭で『雨上がりの夜空に』を初めて歌ったよ」と言っている始末です。
清志郎が生きていたらいつかきっと実現したRCとベーカーの二回目の共演ライブは、もう無理です。でも清志郎の歌がバトンのごとくベーカーのアキラさんに渡り、また新しく甦ることを考えると、あの日、月寒グリーンドームでアキラさんが渡されたにはバトンだったのかと思ってしましました。
そっけない付き合いに見えるアキラさんと清志郎。でも本物のソウルブラザー!
前田重和
*昨年のブルース収穫祭には、RCのドラマー新井田耕造さんが出演してくれました。
今年の収穫祭は12月25日(日)15:30~開演
出演者 ベーカーショップブギー・久保田陽子&スパシーバーズ・町田謙介・Chihana・スイスギターズ・夢野カブ/武内正陽・TWINCAM`S・小嶋とおるバンド・リバティーシューズ・新谷バンド・THE APOLLOS
場所は恒例 ジャスマックプラザ5Fザナドゥ
料金4000円